■ ■ ■ 会場に戻る
「ギター勝負?」
「うん。ギター勝負でどうかなぁ?」
村雨竜輝は首を捻って、その勝負方法を提案してきた対戦相手……天河誠をジロッと睨んだ。
その誠は、竜輝が睨んでいる事にまるで気付いていないかのように、まるっきり緊張感無くニコニコと笑って立っている。
竜輝がギターを得意にしている事は、事前に全員に配られたプロフィールにちゃんと書いてある。
まさか天河誠がそのことを知らないとも思えない。
だとすると……よほど自信があるのか。
そう考えると、竜輝の目には、ニコニコと笑って緊張感が感じられない姿がかえって不気味に映る。
竜輝の背中を冷や汗が流れた。
「くっ…余裕だな……しかし、俺だってギターには少しは自信がある! そうむざむざと負けはしないぞ!」
次第に追い詰められていく空気に負けじと、竜輝は強く言い放つ。
「ええっっ!?」
勢いに圧倒されたのか、誠の顔がサッと真っ青に変る。
「おっ、さすがに、俺の気迫には驚いたか?」
その様子を見て、竜輝は嬉しそうにニヤッと笑う……が、
「ギターに自信を持っているという事は……竜輝って、ギターが得意なんだね!」
バターッッ!!
思いっきり、顔面から床に突っ込む竜輝。
それでも上げた顔に傷一つついていないところが、彼の凄さであろう。
「なんじゃそりゃーっっ!! つーか、俺がギターを得意にしてるのを知らなかったのかよっ!!」
「うん、きっぱりさっぱり知らなかったよ」
「あ、あのなあ……対戦相手のプロフィールぐらいみろよ…」
呆れて立ち上がる竜輝。
「いやー、『村雨流真殺法』って名前だっけ? その格闘技が得意って方ばっかり気をとられちゃって、ギターをやっているなんて項目はすっかり見落としてたよ。こりゃ、お兄さん一本取られたね。はっはっはー」
バキッ!
「にょごっ!」
笑ったままの誠の顔面に、思いっきりめり込む竜輝のグーパンチ。
「あ、アホかーっっ! 『はっはっはー』じゃないだろっ!! というか、俺があれだけ警戒したのは何だったんだぁっっ!!」
「うん。まったくの無駄だね」
ベキッ!
「うにゃ!」
誠の顔面に突き刺さる本日2発目。
「いてててて……もう、竜輝って怒りっぽいなあ。ちゃんとカルシウムを取ってるかい?」
顔面に2発食らっているくせに涼しい顔の誠に、竜輝は呆れて溜息をついた。
「はぁ……何だか、戦う前から疲れちまったよ。まあ、いいや、だったら俺の方が圧倒的に有利だから、ギターの何で勝負するかは誠の方で決めていいぞ」
「えっ!? いいの? いやー悪いねー それじゃ、なんにしようかなー んーと、んーと……」
誠が考え込んでいる間に、竜輝は、側に控えている女性に声をかけた。
「じいやさん。控え室から、愛用のギターを持ってきてくれ」
「かしこまりました」
相変わらずのメイド姿のじいやさんは、深々と一礼して去り、しばらくして、手に楽器をぶら下げて戻ってきた。
「兄やさま。お待たせしました。こちらでございます」
「おっ、早かったな」
竜輝は、じいやさんが差し出す楽器を受け取り、左手でネックを持ち、前に抱え込む。
「おおっ、この竹のようなネック、三本しかない弦の張り具合も申し分ない……って、こりゃ、ギターじゃなくて三味線じゃないか!」
「ご安心下さい。太棹です」
「いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて」
「この日のために、わざわざ津軽から取り寄せました。そうそう、代金は兄やさまのツケにしておきましたので宜しくお願いします」
「だ〜か〜ら〜」
思わず、泣きそうになる竜輝。
「むむ! なかなかやるね。こっちだって負けないよ」
誠の声に竜輝が振り返ると、誠も自分のを出して構えるところだった。
誠が手にしていたものは、
細くて丸いプラスチックの柄。
そして、その右端からは草の穂先が放射状に伸びている。
「……で、その箒がどうかしたか」
竜輝が不審そうにつぶやく。
それは、どっからどうみても箒だった。しかもその辺の雑貨屋で一束いくらで売っていそうな。
「ふふっ」
誠は唇の端を吊り上げてニヤリと笑う。
「竜輝。君は、これを只の箒だと思っているようだね」
「うん? それは、どういうことだ」
「ふふふ。君は伝説のギターリスト『ジミー・ヘンドリクス』という人物を知っているかね」
「そりゃ、ギターでは神様みたいな人だからな。もちろん知って……」
そこまで、言いかけて竜輝はハッとする。
「ッ!……まさか、それは箒なんかではなく、実はジミヘンのギターと何か関係が!?」
「ふふ、そんな単純なものではない!」
誠はそう言って、一見箒に見えるその物体を、大きく頭上に掲げる。
「聞いて驚け。これは、なんとジミー・ヘンドリクスが日本に来た時に必ず立ち寄るといわれている雑貨屋『日本堂』で売られている箒なんだぞ!」
…………
…………
「……俺、もう帰っていいかな」
いきなりUターンしてステージから降りようとする竜輝の裾を、誠が慌ててつかむ。
「ちょ、ちょーっと、待ったっ! それだけじゃない! この箒はその店で売られている箒の中でも最高級の逸品! 見たまえ! この柄のしなり具合を!」
「なるほど、言われてみれば、このしなやかな曲線、まさしく職人の熟練の技! いやー、いい仕事してますね。この中島感服致しました……って、誰が中島○之助やねん!」
ボケ倒されると、結局はそれにノッてしまう。村雨竜輝の哀しい性であった。
「……とまあ冗談はこれくらいにして、こっちにはちゃんと本物が」
誠がそう言って、今度こそ本物のギターを取り出すのを見て、竜輝は安堵の息をついた。
「ふう、やっとまともに勝負に入れるぜ。で、一体何の曲で勝負するんだい?」
「まあまあ、そう慌てないで。まずは僕のやる事を一緒に真似てもらえるかな?」
竜輝は頷いた。
「なるほど、同じ曲で勝負しようってわけだな。いいぜ。始めてくれ」
その言葉を聞いて、誠はギターをゆっくりと構えると、そのまま顔の前まで持ち上げる。
「まず、ギターを構える」
「なんだか妙な構え方だな。まあいい、構えたぜ」
竜輝が誠の行動を真似て楽器を構えたのを見て、誠は軽く頷いて次の行動を口にした。
「で、……それを食う」
「……は?」
思いっきり間抜けな声を上げる竜輝。
「……今、何て言った?」
「聞こえなかったのかい? このギターを頭からバリバリムシャムシャモグモグと……あがっ!」
竜輝のチョップが、誠の脳天を直撃する。
「こんなデカイ物が食えるか!」
「安心したまへ。細かく砕いて食うのもアリだ」
「そういう問題じゃねえっっ!!」
「う〜、竜輝ってわがままだね」
「だいたいそう言うんだったら、まず誠が食ってみろよ」
「しょうがないなあ。わかったよ」
誠はゆっくりと自分のギターを口に持っていく。
そして、そのまま動きをピタッと止め、目の前のギターをジッと見つめる。
…………
しばらくして、誠はおもむろにギターを下ろして脇に置き、何事も無かったかのように爽やかな笑顔を、竜輝に向けた。
「さ、それはともかく」
「こらこらこら、自分でもできないことを勝負にするんじゃない!」
「まあ、ギター勝負は引き分けだった事だし、他の勝負方法にしようよ。うん」
「……引き分けも何も、そもそも勝負になってなかっただろ」
竜輝の冷たい視線をものともせず、一方的に誠は続けた。
「そうだね〜 やはりここは正統的に『自分がいかに妹を愛しているか』を強くアピールできた方が勝ちというのはどうだろう?」
「強くアピール? どういうことだ、それは?」
「うん。早い話が、妹を自慢し合って、より魅力をアピールできた方が勝ち」
「なんだそりゃ、そんなので勝負してどうするんだ。だいたい、そんな恥かしい真似、俺は嫌だぞ!」
憮然とする竜輝に、誠はここぞとばかりに畳み掛けた。
「何言ってるんだよ竜輝! これは『兄キャラトーナメント』なんだよ! 妹を想う強さイコール兄としての強さじゃないか! だいたいそれ以外の腕力とかで僕が竜輝に勝てる可能性なんてないだろ!」
「そ、そりゃまー そーだろうなー」
あまりの正直さに、竜輝は半ば呆れながら答える。
「よし! 竜輝も納得しくれたようだし、これが勝負方法ということで」
「ちょ、ちょっと待て。俺はまだ了承したわけでは……」
「ええっ! さっき納得してくれたじゃないか! いまさら前言撤回するなんて男らしくないよっ!」
「あ、あのなあ…」
「ああっ、まさか村雨竜輝ともあろう人が、そんな簡単に発言を翻すような人だったなんて! 全国一千万の竜輝ファンがどんなに悲しむ事か! 『ひどいわ竜輝さん! あの夜の約束は口先だけだったのね!』とか『わたしだけを見てくれるって言ってたじゃない!』とか『夕べ、ベッドの上で「君だけを愛している」って言ってくれたのは嘘だったの!?』とか口々に訴えてくるファンが続々と……」
「勝手にもっともらしい会話を捏造するんじゃない! ああ、もうっ、わかったわかった、その方法でいいよ。……ったく」
「いやー、さすが竜輝。きっと受けてくれると僕は信じてたよ」
「はあー……しかし、自慢するとしても、どっちが上かなんて、どうやって判定するんだ?」
「大丈夫大丈夫! ちゃーんと考えてあるって」
「……本当に大丈夫なのか?」
調子良い口振りの誠に対して、さっきまでの事もあって、疑わしそうな目を向ける竜輝。
「何言っているんだ竜輝。僕のこの澄み切った瞳を見たまへ! この目を見ても信用できないのかいっ!?」
「……信用できる奴は、自分から『澄み切った』とか言わないと思うぞ。普通」
大げさな笑顔で自分の目を指差す誠を、竜輝はますますうさんくさそうな目付きで眺める。
「まあまあ、そう言わずに。ほらっ、このスタジアムを埋め尽くした大観衆を見たまえ!」
「唐突になんだよ……たしかに満員の観客だが、それがどうかしたのか?」
誠が差し伸ばした腕の先に見える、観客で一杯のスタンドを、竜輝は訝しげに見渡した。
「ふふっ、だから、この観客の皆さんに審査員になってもらうのさ」
「……はっ?」
今一つ、意味が飲み込めない竜輝。
「だ・か・ら、僕達のアピールを聞いてもらって、観客の反応が良かった方が勝ちって事だよ」
「反応ねえ……まあ、それでもいいが、結構大雑把じゃないのか? もし同じくらいだったらどうするんだ?」
「えーと、その時は……」
答えながら、辺りを見回していた誠の視線が、ふと竜輝に付き添ってきたじいやさんの顔で止まる。
「あっ、微妙な部分は、あの人に判定し貰おうよ」
「えっ、じいやさんにか!?」
「うん。そこのじいやさん。ちょっとこっちに来て貰えますか?」
誠がじいやさんを手招きする。
「承知致しました」
指名されたじいやさんは、特に驚いた様子も見せず、ゆっくりとステージに上がってくる。
逆に慌てたのは竜輝の方だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それじゃ誠の方が不利にならないか?」
じいやさんが村雨家に仕える以上、竜輝の方に有利な判定をするであろう事は、容易に想像がつく。
「兄やさま。ご安心下さい」
じいやさんは、クルッと竜輝の方に顔を向けた。
「判定に私情を挟んだりは致しません」
「おお、さすがだな」
「本当に微妙な時には、ちゃんと兄やさまに不利に判定致しますから」
「いや、それも困るが」
勝負のためにマイクが用意されている間、誠はふと気がついて竜輝に尋ねる。
「そういえば、竜輝は妹達と一緒に来ていないの?」
「えっ? あは、はははは……」
引きつった笑いを浮かべる竜輝。
そう、彼は妹達を『置いて』来ているのだ。
〜その頃の村雨邸〜
「お兄様ーっっ! どこにいらっしゃるのーっっ!! ……ああもう、せっかく今日はお兄様とデートする日なのに……お兄様ったら約束を忘れていったいどこに行ってしまったのかしら」
ちなみに、竜輝はもちろんそんな約束なんかしていない。
「おかしいね。お兄ちゃんたら出かけちゃったのかなぁ? 可憐だってせっかく新しい下着を着て待ってたのに……」
可憐は可憐で思いっきり不穏な発言をしているように思えるのは……たぶん気のせいであろう。
パタパタパタ…
そのとき、廊下を大慌てで走ってくる足音が聞こえて来た。
バタン!
「た、たいへんチェキ! 兄チャマの机の上にこんな手紙がっ!」
ドアを壊しそうな勢いでみんなのいる居間に飛び込んできたのは、手に封筒を持って振り回している四葉だった。
「見せてよっ!」
咲耶は四葉から封筒をひったくり、中の便箋を取り出し、バッと広げる。
周りからは、妹達が、われ先にその便箋を覗き込む。
その便箋には……
『旅に出ます。探さないで下さい。
By 竜輝』
とだけ書いてあった……
思わず、絶句する妹達。
「あれっ、ねえねえ裏にもなんか書いてあるよ?」
上から覗き込めなかったので、下から伸び上がるようにして見ていた雛子の声に、咲耶は慌てて便箋を裏返す。そこには……
『PS.お土産にはちゃんとトイレットペーパーをゲットして帰るので、みんな楽しみに待っているように』
という文字が書かれていた。
グシャ。
「お、お兄様ったらーーっっっ!!!」
力任せに手紙を握りつぶし怒りの声を震わせる咲耶。
ポン。
そんな怒りに震える咲耶の肩を叩く者がいた。
怒りの形相のまま咲耶は振り返りまくし立てる。
「なによ千影。あんたは怒ってないのっ! お兄様ったら、私たちを置いてきぼりにしたのよっ!」
肩を叩いた当人である千影は、咲耶とは対照的に全く怒っている様子が無い。
いや、それどころか、口の端に微笑を浮かべているようにさえ見える。
「まあまあ……ここは私に…まかせて……くれないか」
「いったい、どうするっていうのよ」
憮然として千影を睨む咲耶。
「ふふっ……こういうことだよ………サンダー(ボソ)」
……ゴロゴロゴロ
しばらくして遠雷の音が妹達の耳に届いた。
〜同時刻、トーナメント会場〜
ピシャッッッ!! ドーンッッッッ!
「うわっっ!! なんだーーーっっっ!!」
いきなり会場のど真ん中に落ちて来た稲妻に、誠は思わず叫び声を上げる。
その誠の前では、竜輝がこんがり狐色に焼けてぷすぷす音をたてていた。
「う、うーん……ついに千影達にバレてしまったか……」
香ばしい匂いを立たせながらも、なんとか意識が失うのを踏みとどまって、竜輝が呟く。
「大丈夫です。兄やさま。今のは威力が抑えてありましたから」
「そーゆー問題ですか?」
冷たく言い放つじいやさんに、思わず誠の方が突っ込む。
「誠さま。ご心配には及びません。この程度であれば日常茶飯事ですので。それより準備も整いましたようですし、どうぞ試合をお始めください」
「あれが日常茶飯事ねぇ……」
あまりの展開に半分取り残されていた誠だが、気を取り直してマイクを握り締めた。
「うーん……じゃあ、僕から行かせて貰うよ。まずは、雛子。あの小さな体で、トコトコと懸命に駆けよって来て、『おにいたまー』といって抱きついて来る可愛さったらないぞ!」
『ほおー……』
観客席から思わず溜息が漏れる。
反応としては、まずまずといったところだ。
竜輝も雛子の様子を思い浮かべ、思わず頷く。
「なるほど、では俺の番だ。俺の方は亞里亞。あのおどおどした態度で上目遣いに見る姿は、たまらないぞ! 萌えだぞ! 萌……あぅっ!」
めごし。
竜輝の顔面にじいやさんの正拳突きが突き刺さる。
「兄やさま。亞里亞さまに対して、下品な想像をなさらないでください」
「し、しかし、観客の反応を見てくれ。どうだ!」
竜輝は、顔を抑えながら必死に反論する。
『おおっ、それは萌えだよな』
『た、たまらないぜ!』
『やっぱり、小動物チックなところがポイント高いよ』
観客席からは、さきほどよりも遥かに大きな歓声が湧き起こっている。
「くっ」
誠は悔しそうに唇をかみ締めた。
「なかなかやるね。それじゃ、こっちは衛だ。普段はスポーツ万能で活発なのに、おっちょこちょいなところがあって、さらに勉強になると、急に人が変わったように弱気になってしまうところがまた魅力だぞ! おまけになんと『ボク』っ娘!」
『な、なるほど、これも捨てがたいな!』
『やはり、活発でおバカというところが最高に可愛いよな!』
『それに、運動の時と勉強の時のギャップ! これはハズせないぜ!』
『いやいや、『ボク』キャラという点に、一番の良さが!』
誠の声に、観客席からは、さらに大きなざわめきが拡がっていく。
その反応の大きさに、竜輝は慌てて切り返す。
「ま、待て! こちらは鞠絵だ。なんたって病弱眼鏡っ娘だぞ! さらにそれに加えて文学少女というのも大きいぞ!」
『おおっ! 病弱で眼鏡っ娘というのは、王道だよな!』
『うーん……俺は眼鏡っ娘はどうも……』
『馬鹿者! それに加えて文学少女だぞ! その魅力がわからないとはキサマさてはモグリだな!』
観客同士でほとんど殴りあいが起きそうなぐらい、どよめきはどんどん大きくなっている。
「うむむむ……こうなったら切り札をだすしかないな」
誠は腕を組んで唸っていたが、決心した表情でマイクを握り直した。
「よし! 咲耶だ! 美人でナイスバディと完璧な上に、さらに面倒見も良いよ! ……まあ、ときたま周りが見えてなかったり、実力行使して来たり、嫉妬に駆られてジェットアッパーを食らわしてくるのだけは勘弁して欲しいけど……」
ポンポン。
竜輝が誠の肩を軽く叩く。
「誠も、苦労してるんだなぁ」
「ま、まあね」
思わずしみじとしてしまう二人であった。
「いや、俺も良くわかるよ。俺のところの千影も、ミステリアスな雰囲気漂う美人なんだが、何を考えているのかわからないこともあるし、何より怪しげな儀式に付き合わされるのは勘弁して……」
ピシャッッッ!! ドーンッッッッ!
「ぬおっ!?」
すぐ真後ろに落ちた雷に驚いて飛びのく竜輝。
誠も驚きのあまり顔面蒼白になっている。
その中で、唯一顔色一つ変えなかったじいやさんが、冷静に竜輝に告げる。
「おそらく、千影さまからの警告ではないかと」
その言葉を聞いた竜輝は、慌てて左右を見回し、どこにいるともしれない千影に対して必死に弁明する。
「ま、まて、千影! 話せば分かる! 俺は千影の事をちゃんと理解しているぞ! 決して、『すぐ悪魔を呼び出したがる』とか『ちょっとからかっただけで生け贄に直行させられる』とか『ほとんど人間とは思えない』とか、そんな事、微塵も思ってなんか無……あ、あれ? 二人ともどうして、俺から逃げて行くんだ?」
タッタッタッタッタ……
竜輝がふと我に返ると、誠とじいやさんが、竜輝に背を向けて全速力で走っていく姿が見える。
直後。
ピシャッッッ!! バシーンッッッッッ!!!
そこには、焼きすぎたサンマのように真っ黒焦げになった竜輝の姿があった。
「ふっ、さすがは千影、手加減無しか……」
バタリ。
セリフだけは、二枚目キャラとしてのプライドを残して、竜輝はぶっ倒れた。
倒れた竜輝の側にかがみ込んで様子を診ているじいやさんに、恐る恐る誠が近づいてくる。
「え、えーと……竜輝は大丈夫なんでしょうか?」
黙って誠の顔を見上げたじいやさんは、悲しそうに顔を左右に振った。
「これだけまともに落雷を受けてしまっては、いくら兄やさまといえども……」
「そ、そうですか……」
誠は、心の中で、ライバルであり戦友(とも)でもあった竜輝の冥福を静かに祈った。
そんな誠に、じいやさんは厳しい顔をしながら続けた。
「はい。全快するのに一晩はかかってしまいます」
「はっ?」
思わず、口をポカンと開けてしまう誠。
「ええ、明日の朝にはもう元気一杯だと思うのですが、さすがに今日中にはとても復活できそうにありません。残念ながら今回は棄権するしかないでしょう」
「は、はあ……」
じいやさんは、立ち上がり、未だ状況が良く飲み込めていない表情の誠の手をギュッと握り締めた。
「誠さま。どうか兄やさまの分まで頑張ってください」
「え、えーと……なんだかわかりませんが、とりあえず頑張ります」
ウヤムヤのうちに勝者になってしまった誠であった。
その後、病院のベッドで、参加賞のトイレットペーパーの山に囲まれて幸せそうに横たわる竜輝の姿があった。
「とにかく最大の目的は達成した事だし、これで俺も胸を張って妹達のもとへ帰れるぞ。よしっ!」
「……本当に咲耶さまや千影さまが納得されるとお思いですか? 兄やさま」
「うっ……やっぱりダメかなぁ……ま、まあ、何とかなるさ、きっと。あは、はは……はぁ…」
訂正。
じいやさんにリンゴを剥いて貰いながら、ベッドの上で布団を引っかぶって悩む竜輝の姿があったという。
〜おわり〜
- あとがき
- えーと、まず、ひじょーーーーーーーーーに、完成が遅くなりました事をお詫び致します。特に宝さんとSILVERさんに。
しかも、時間をかけた割にこんな話になってしまいまして、申し訳ございません。
いやー、他の人の兄を書く事自体はとても楽しかったのですが、どうしても話がまとまりませんで。
とりあえず、話が完成してホッとしています(笑)
2002年11月19日完成