「(ハート)のスタートライン」(以下、「ハートのスタートライン」と表記)という曲は、恋愛シミュレーションというジャンルに金字塔を打ち立てたゲーム「ときめきメモリアル」のオリジナルソングです。
この「ときめきメモリアル」というゲームには、その人気を反映してかゲーム本編以外のラジオドラマ等で使用されたオリジナルソングが多数存在します。
おそらくゲーム販売元のコナミよリリースされたCDは40は下らないと思われます。
……もっとも、重複して収録されている演奏が多いのも事実ですが……
ちなみに、これらのオリジナルソングのほとんどはゲームのキャラクターを担当している声優が歌ったものです。
その数多くあるオリジナルソングの中でも、この「ハートのスタートライン」は、緊張感のあるイントロ、華やかで明るいメロディー、ノリのいいテンポを兼ね備えており、ファンの間からも人気が高く、イベント等ではそのお祭り的雰囲気からアンコールで演奏されることも多いそうです。(すみません。わたしはイベントに行ったことがないので、伝聞形になってしまいますが…)
わたし自身もこの曲は非常に好きで、「ときめきメモリアル」関係のオリジナルソングの中では、2番目に好きな曲の一つです。
これらの「ときめきメモリアル」のオリジナルソングには、曲によっては違う人が歌ったバージョンが存在します。
この「ハートのスタートライン」は、その中でも最もバリエーションに富んだ曲の一つで、わたしが確認しているだけで5種類存在します。
そこで、せっかく同じ曲について5種類の演奏があるんだから、聴き比べてみよう! というのがこのコーナーのコンセプトなのです。
さて、その5種類の演奏とは以下の通りです。
この順番は、CDの発表順であり、実際の録音時期は前後している可能性もあります。
(1)
歌 手:
菅原祥子・菊池志穂・黒崎彩子
収録アルバム :
ときめきメモリアル ボーカル・ベスト・コレクション2(キング:KICA7722〜3)
(2)
歌 手:
ときめきオールスターズ(栗原みきこ・鉄炮塚葉子・五十嵐麗・川口雅代・黒崎彩子・菅原祥子・よしきくりん・関根明子・菊池志穂・笹木綾子・中友子・金月真美)
収録アルバム :
ときめきメモリアル ボーカル・ベスト・コレクション4(キング:KICA7785〜86)
(3)
歌 手:
菅原祥子
収録アルバム :
Sati’s−faction(キング:KICA7871)
(4)
歌 手:
菊池志穂
収録アルバム :
My Sweet Days(キング:KICA7919)
(5)
歌 手:
黒崎彩子
収録アルバム :
乙女想夢(キング:KICA7941)
※以上の歌手名について、アルバムによっては虹野沙希(菅原祥子)、館林見晴(菊池志穂)、古式ゆかり(黒崎彩子)等、ゲームキャラクター名によるクレジットのものもありますが、便宜上全て声優名で統一しています。
上記の五つの演奏を御覧になれば、複数のメンバーで歌った演奏と単独で歌った演奏とに大きく二つに分けられることに気が付かれるでしょう。
早い話が、最初に歌った三人が後からそれぞれソロで録音したというだけなのですが、実はここで『初めは三人で歌う曲だった』というのが一つのポイントになります。
この場では歌詞を掲載しませんが、歌詞は『みんな一つの目標に向かったライバル、そして自分自身を含めたライバル全員の気持ち』がテーマになっています。
この歌詞では、一人称は基本的に『私たち』であり、一つの集団の中の一人としての自分であるため複数で歌う方がしっくりくるのです。
以上の点を考えると、(1)は原曲だけあってバランスが取れた演奏になっています。
菅原祥子・菊池志穂・黒崎彩子は三人とも音域が近く、曲もそれに合わせて書いてあるため、同じフレーズを三人が順番に歌っていっても無理なくつながっています。また、フレーズによっては三人同時に歌ったりと、華やかさも備えています。
ただ難点は、菊池志穂と黒崎彩子の声の質が近く、二人の差があまり感じられません。もちろんこれはわたしの耳がよくないためでもあるのですが。
一方、菅原祥子はとても特徴のある声をしているので、曲に変化を持たせる良いアクセントになっています。
次に(2)ですが、これは、ゲーム中の主要キャラクターが総出演していることもあり、(1)を遥かにしのぐ華やかさです。
それぞれにソロがあり、しかも声に特徴がある人が多いため、バラエティに富んだ楽しさがあります。
さらに、全員で歌う部分は圧巻で、お祭り的な要素が最も表れています。
ただ、全員に順番に歌わせるのはかなり苦しく、随所に無理が表れています。
それがもっとも目立つのが音域です。
ゲームのキャラクターという関係上、大人っぽいキャラクターから子供っぽいキャラクターまで、大きな幅があります。
イメージの関係上、大人っぽいキャラクターは、落ち着いた声になり、子供っぽいキャラクターは甲高い声になっていきます。
で、困ったことに、原曲の三人は割と声が高めのキャラクターだったのです。
その三人に合わせて曲が作られているため、声が低めの、鏡魅羅役の五十嵐麗や紐緒結奈役の中友子には、ほとんど無茶な音域です。
結果として、かなり苦しげな歌い方にならざるを得なくなってしまっているのです。
また、上記の問題とも絡んでくるのですが、全員順番に歌うということは……歌手の差がハッキリ出てしまうのです。
特に一番差が出るのが、音程と声の太さです。
誰がどうとは書きませんが、傾向としては音程はどうも下がり気味になるようです。
さらに、声の質による差があります。
この部分は、先ほど書いた声の特徴が直に影響してきます。
もともと自分の持ち曲でないため、どうしても、人によって曲が合う合わないがでてくるのは仕方が無いところでしょう。
合わない方はさすがにここでは書けませんが、合う方で代表的なのは藤崎詩織役の金月真美です。彼女は声に華があり、またテクニックもしっかりしているため、この歌にピッタリ合っています。
さて、一方、最初(1)で歌った三人が、それぞれソロで歌った(3)(4)(5)ですが、一人で歌っているため、華やかさという点では(1)(2)には及びませんが、三人の個性はよりハッキリ表れています。
まず(3)の、三人の中で最も最初に録音した(と思われる)菅原祥子の録音ですが、(1)の際に書いた、良いアクセントになる特徴のある声が、この演奏では完全に裏目に出ています。
菅原祥子の声は甘めで甲高いので、一度聴けば二度目からは必ずわかるような特徴のある声なのですが、歌用に声を作っていないため、ペタッとした平べったい声質なのです。
特にその特徴の影響がモロに出るのが、長い音符で声を伸ばしている部分で、抑揚やビブラートを全くつけていないことも手伝い、ひどく薄く単調に聞こえます。
しかし、この演奏の価値は、歌の上手い下手、声の質の良し悪しにあるのではないのです。
この演奏の真の価値は、虹野沙希役の菅原祥子が歌っているという事実にこそあるのです。
虹野沙希が歌っている……これこそがこの演奏の最も重要な点なのです。
しかも、他の二人が、キャラクターの声とは多少なりとも異なっている歌用の声で歌っているのに対して、菅原祥子だけはキャラクターを演じるときと全く一緒の声で歌っているのため、あたかも虹野沙希が歌っているかのように聞こえてくるという点が、その価値をさらに高めています。
次に(4)の菊池志穂ですが、最初に(1)の演奏を聴いたとき、歌っている三人の中で最も上手いと思ったのが菊池志穂でした。
声の厚み伸びとも、他の二人を上回っていました。
したがってこのCDはかなり期待して聞いたのですが………結果としては、ちょっと物足りなく感じました。
別にソロになったからといって、急に歌が下手になったわけではありません。
おそらく三人の中で、この人が最も歌唱力があるのではないかと思います。
声には華があり、さらに深みがあります。さらにフレーズの取り方が上手く、丁寧に工夫して歌われている事がよくわかります。
しかし、残念ながらこの演奏は大人しくなりすぎてしまいました。
わたしの印象では、今回の五つの演奏の中で、もっとも地味に感じられます。
声自体は華があるのですが、丁寧に歌いすぎて勢いが無くなってしまっているのです。
アルバムに入っている他の曲では素晴らしい歌声を聞かせてくれるのですが、この曲では、わたしが求めた華やかさはありませんでした。
最後に(5)の黒崎彩子です。
結論から言いますと、(3)(4)(5)の三人のソロの演奏の中では、この演奏が最も好きです。
この演奏は5枚の中で最後に録音された(と思う)のですが、実は、他の(3)(4)と比べてほんの僅かに編曲その他が変わっています。
もっとも大きな変更点は『音響』です。
残響が一層強くなり、バックのサウンドだけでも他の2枚より華やかに聞こえます。
さらに、歌詞の途中で『わたしたち』と複数形で歌う部分があるのですが、この部分を(1)では3人一緒に歌っていたのに、(4)(5)のソロでは一人で歌うようになっていたため、どうしても違和感がありました。しかし、この演奏ではこの部分にバックコーラスがつくようになり、『わたしたち』という歌詞のイメージにより合った形になったのです。
さらに黒崎彩子の歌にも驚きました。
初めて(1)を聴いたとき、三人の中で最も特徴が無く大人しく聞こえたのが黒崎彩子でした。
その後、(4)を聴いたとき、(1)で最も華があった菊池志穂があまりにも大人しくなってしまったため、「最も華があった菊池志穂でさえこんなに大人しくなってしまうんだったら、もともと大人しかった黒崎彩子はどうしようもないほど地味になっちゃうんじゃないか」と思い、この演奏を買うのをしばらく躊躇していました。
ところが、いざ買ってみると、なんとこの演奏が三人の中で最も華やかな演奏でした。
(1)で大人しかったのが嘘のように、素晴らしいスピード感と、アグレッシブなメリハリのある歌声を聞かせてくれます。
しかも声に厚みがあるため、長い音符での伸ばしも音が痩せず聴き応えがあります。
特に素晴らしいのがメロディーの歌い方です。
疾走感溢れる歌い方のため、下手すると歌詞が上滑りしてしまうのですが、アクセントを効果的に使うことで、ポイントポイントをしっかりと際立たせています。
また、音から音への移り変わりも、部分部分で滑らかに繋いだりパッと切ったりと、曲にピタリと合った使い分けをしています。
ただ、一つ惜しいのは音程です。
残念ながらあまり良くなく、特に高音での伸ばしはかなり下がり気味になっています。
他が良いだけに、かなり惜しまれます。
最後に
今回は突発企画ということで、「ハートのスタートライン」聴き比べという企画をやってみました。
同じ曲に対して、いくつも演奏があるという点で、クラシックと似た部分もありましたし。
一応単発の企画ですが、もし好評であれば、他の曲でもやってみたいと思います。
………たぶん不定期になるとは思いますが……(2001/8/3)
曲データ
作詞:くまのきよみ
作曲:村井聖夜
編曲:山下正